戦い方の探索者

戦いの知恵を身につけ、自分の戦い方を築く。

不思議の[ゲームの]国のアリス その1

 

●公園のアリス

 

「ああ、つまんない」
少女は公園のベンチに座り、つぶやいた。

 

少女の名はアリス。
とくに予定のない初夏の昼下がり、ぶらっと家から出てみたが、やっぱりおもしろいことは何も見つからない。
少し足を休めようと、見かけた公園に入り、ベンチに座った。

 

公園で遊んでいるアリスより小さな子供たちを、ぼんやり眺めるでもなく眺めていると、一匹のウサギがアリスの前を走り去った。
「えっ、ウサギ?!」
アリスは驚いて、ウサギの走り去ったほうを見た。
こんな都市部の公園では、ウサギがいること自体が珍しい。
さらに、よく見ると、なんとそのウサギは二本足で人間のように走っている。

 

「これは……」
アリスは一瞬、ぼうっとしたが、
「これは、おもしろい!!」
と、好奇心を急膨張させ、ウサギを追って走り出した。

 

 

●トイレの穴に落ちて

 

ウサギは、公園の男性用トイレへ走りこんでいった。
アリスは無我夢中でウサギを追いかけていたので、男性用であることには気づかず、トイレへ走りこむ。

 

トイレの中では、おっさんが小用を足していた。
おっさんの尿が勢いよく小便器へほとばしるさなか、その背後に駆け足のドタバタという音が起こる。
何事か、とおっさんが首だけ振り向くと、少女がトイレへ駆け込んできていた。
おっさんの尿が止まる。

 

そんなおっさんを尻目に、アリスはウサギを追いかける。
ウサギは、トイレ奥の掃除用具入れの扉を開け、入っていった。
アリスも続けて入る。

 

すると、アリスの足元の地面が無くなり、アリスは落下した。

 

「あはは! 落ちた!!」
アリスは喜び、そのまま落ちていく。
どうやら、長いタテ穴のようで、その壁面は棚になっており、さまざまな機械がおいてある。

 

「なにかしら……」
機械に手を伸ばしてみるアリス。
落下速度はゆるやかなので、簡単に手に取ることができた。

 

「あ、コントローラーがついているわ。これはゲーム機ね」
どうやら壁の棚には、歴代の家庭用ゲーム機、また、アーケードゲームの筐体などがズラッと陳列されているようだった。

 

「こんなにゲームに種類があるなんて知らなかったわ。
それにしても、なぜこんなところにゲーム機が置いてあるのかしら……」

 

アリスがあれこれ考えていると、タテ穴の底が見えた。
底には、タイヤの無いバイクのようなものが備えつけてある。
そのタイヤの無いバイクのようなもののシートの部分に、落下してきたアリスはまたがった。

 

その瞬間、アリスの目の前にモニターが1つ、またその左右に1つずつ、計3つのモニターが出現した。
正面のモニターには、
『ミッション開始』
との文字が表示されている。
「なにこれ……」

 

 

●はじめてのミッション

 

『ミッション開始』
の文字に続き、モニターに
『ミッションの目的:ウサギを捕まえろ』
と表示された。

 

「ウサギを捕まえる?」
とアリスが言う間もなく、モニターの画面が切り替わり、1機のロボットが映し出された。
そのロボットは、背中をこちらに向けている。

 

「? なに? なんなの?」
アリスは、何が起こっているのか、さっぱりわからない。
左右のモニターをキョロキョロと見回したあと、もう一度正面のモニターをよく見てみると、ロボットの頭を越えた画面奥のほうに、走っているウサギの後ろ姿が見えた。
「あれはウサギさんだわ!」
アリスが声を上げた瞬間、つい前のめりになって、モニターの下、そしてアリスの目の前にあるハンドル(形はバイクのように横一文字に近い)を手で押した。

 

すると、ハンドルとともにアリスが座っているシート全体が前へと傾き、同時に画面内のロボットが前へと進んだ。
「わっ! なに?! なんなの?!」
しかし、アリスはシートが傾いたことに気をとられ、画面内のロボットの前進には気づかなかった。

 

「このイス、動くわ!」
アリスはシートを前後左右に揺らしてみた。
「倒れはしないみたいだけど……」

 

また、目の前にあるハンドルをあれこれいじりはじめた。
モニターに表示されているロボットは、ハンドルの動きに対応していろいろな動作をしているようだが、アリスはハンドルに夢中で気づかない。

 

そうこうしているうちに、画面が赤く光りはじめ、けたたましく警告音が鳴りはじめた。
「なに!? 驚かさないでよ!!」
アリスは画面を見る。
そこには、『残時間12秒』と表示されていた。
「時間? なんの時間かしら?」

 

アリスはきょとんとして画面を見ていると、時間のカウントが0になり、『ミッション失敗』という文字が表示された。
「失敗? ミッション? なんのことかしら……」

 

アリスはいぶかしげにモニターを眺めていると、突然モニターやシートが消え、長い通路に立っていた。

 

 

●ドアの広間へ

 

通路は一本道で、アリスの背中側は行き止まりになっており、アリスの前方にはずっと先まで通路がのびている。
そののびた通路の先に、ウサギの後ろ姿が見えた。
「あっ、ウサギさんだわ!」
アリスは再び走り出した。

 

通路は奥で右折しており、ウサギもそこで右折して姿が見えなくなった。
少ししてアリスが同じように右折すると、その先には細長い広間があった。

 

広間の壁には、ドアが並んでいる。
ドアには、木製のものや鉄製のもの、また、ノブのあるものから無いものまで、さまざまだ。
それらドアのうち、アリスは透明なドアを見つけ、その前に来た。
ドアの横には、『クリスタルのドア』と書いてあり、ドアを透かしたその向こう側には、花と緑にあふれたとてもきれいな庭が見える。

 

アリスはその庭へ行ってみようと思い、ドアノブに手をかけた。
すると、アリスとドアの間にモニターが現れ、『通行不可。レベル不足』と表示された。
また、機械音声で、
『あなたは、知能、身体、精神、それらのスキルのどれもがまだドア通過レベルに達していません。またレベルを上げてから来てくださいね!』
と言われた。

 

「そうなの……」
アリスは念のために一度ドアノブをひねってドアが開かないことを確認してから、クリスタルのドアから離れた。

 

「そういえば、ウサギさんはどのドアへ入っていったのかしら?」
クリスタルのドアに気をとられていたアリスは、ウサギのことを思い出した。
「この広間にいないということは、どこかの扉から出ていったに違いないわ」
そう考え、広間のドアを手当たり次第に開けてみることにした。

 

しかし、それらドアのことごくから、
「すまんのう、あんたはレベル不足でこのドアを開けることはできんのじゃ。また来てな」
「じょうちゃん、成長度が足りてないぜ! また出直しな!」
「そのレベルでこのドアを通ろうですって!? ふざけないでよ!! 家でミルクでも飲んでな!!!」
「去れ、未熟者!」
と、さまざまな機械音声で断られた。
どうやらドアには個性があるらしい。

 

すべてのドアからさんざん否定されたアリスは、なんだか悲しくなって涙が出た。
その涙のつぶがアリスのほおから流れ落ち、そして地面に落ちたとたん、アリスの周りの景色が変わり、どこか別の部屋になった。