戦い方の探索者

戦いの知恵を身につけ、自分の戦い方を築く。

不思議の[ゲームの]国のアリス その4

 

●ウサギのお使い、突撃のビル

 

ウサギはアリスに近づいてくると、まくしたてた。
「おい、メアリー!
こんなところで何をしているんだ!
はやく家に帰ってわたしの格闘用武装をとってきてくれ!
さあ、はやく!」

 

アリスはウサギの勢いに気圧されて、ウサギの指さした方向へ走り出してしまった。
「メアリー? 人違いよね……ウサギさんのお手伝いさんかしら?
でもまあ、ようやくウサギさんに追いついた、と考えればいいか……」
そんなことを考えながら走っていると、こじゃれたレンガの家に着いた。

 

表札には『ウサギ』とある。

 

「ここね? 格闘用武装をとってきてって言ってたけど、もちろん家の中よね?」
アリスは家の扉を開けて、中へ入る。

 

1階はリビングやキッチンで、装備は見つからなかったので、2階に上がった。
そして、寝室らしい部屋に入ると、ベッドの横の棚に装備らしきものが置いてある。

 

「これかしら?」
アリスはそれを手に取った。
すると、突然、甲高い音がけたたましく鳴りだした。

 

さきほど岸でアリスを追い立てたウサギは、アリスの後を追って自分の家に向かって走っていた。
家に着くと、甲高い音が鳴り響いている。
「おいパット、パット! どうしたんだ! 警報が鳴っているぞ!」
ウサギは叫んだ。
すると、家の横の小振りな格納庫から、モルモットのパットが出てきた。
「ここでございやすよ、だんな。装備品を掘っておりやした」
「装備品を掘っていただと!? この警報はどうだ!」
「ありゃホントだ。だんな、どうしたんでしょう」
「どうしたもこうしたもあるか! 警報だ! おまえ見てこい」
「えっ、それはキビシイす」
「なにがキビシイ、だ! さあ行け!」
「いやいや、突入はビルの役目っすよ。ビル」
「なに? ビルの? そうだったか? ビル、どこだ! ビル!」
「なんでしょう、呼びましたか?だんな」
格納庫からトカゲのビルが出てくる。
「ビル、警報だ! 家の中を見てきてくれ!」
「あ、警報。はあ、まあ、突撃はあっしの役目なんでね、行きますよ、はい」

 

「ミッション開始だな」
とビルがつぶやくと、ビルの姿がロボットの機体へと変化した。
背中についている推進器を吹かす。
「よし、行くべ!」

 

ビルは扉を蹴破って家の中に突入した
「こらーっ、家を壊すな!」
ウサギの怒号がうしろから聞こえる。
「へへっ、非常時でさぁ」
ビルはしれっとつぶやいた。

 

ビルが家に突入する少し前、家の2階では、アリスがいきなりのミッション開始に驚いていた。
どこからか『ミッション開始』という声が聞こえたかと思うと、アリスの姿は、アリスのロボットの機体へと変化している。
「またミッション?! なぜかしら? シートに座っていないのに……」
すると、再びどこからか『目的:敵を撃破せよ』との声が聞こえる。
「敵を撃破しろって? いったい、どの敵なのかしら?」
ちなみに、アリスの機体はレース用に改造した装備のままである。

 

とその時、1階で大きな物音がした。
ビルがドアを蹴破った音である。
(1階になにかいるわ! それが敵かしら……)
階が違うからか、モーショントラッカーの反応はない。
アリスはおそるおそる階段に近づく。
すると、階段の下のほうから機械的な足音がする。
(なにか上がってくる…)
息をのむアリス。
アリスは階段から離れ、開いている寝室の扉のかげから階段を見守った。

 

しかし、誰も上がってこない。
(足音もしてないわ……?)
とその瞬間、階段横の窓をぶち破ってビルが現れた。
ガラスが派手に散乱する。
すばやく自動小銃を構えて周囲を確認するビル。
「あら、たしかに気配がしたと思ったんだがの」

 

寝室の扉のかげにいるアリスは、ビルの突然の出現に驚いた。
すると、どこからか『敵を発見。プレイヤー:ビル』という声が聞こえる。
ビルは、アリスの前方に、アリスに背を向けて立っている。
(敵、ビルっていうの? これは……体当たりする絶好のタイミングだわ……!!)
アリスはそう判断した。
しかし、ビルが銃を構えているさまを見て、迎撃、あるいは反撃を恐れてしまい、攻撃にうつれなかった。

 

その直後、ビルがアリスに気づいた。
刹那、ビルはすさまじい加速をかけ、アリスに向かって突撃し、その銃剣でもって扉ごとアリスの機体を貫いた。

 

「その場所にいながら、攻撃せんかったのかい。
脚の故障なんかな?」
ビルがつぶやく。

 

アリスは敗北した。
光とともにアリスが消える。

 

気がつくと、森の中にいた。
木々の間から、少し遠くにウサギの家が見える。

 

「負けちゃったのね……」
アリスは地面にひざをついた。

 

そしてそのまま、力が抜けたように地面に座り込む。
決定的な敗北のショック、そしてネズミとの突然の別れを思い出し、アリスの目にふたたび涙があふれてきた。

 

しかし涙をぬぐう間もなく、犬の吠え声とも、パトカーのサイレンともとれない音が聞こえて来た。
「なにかしら……」
音はアリスに近づいてくる。
アリスは近くの低木に身を隠した。

 

身を隠した直後、木々が揺れたかと思うと、やけに重装備のロボットが現れた。
アリスの目の前に現れたマップ画面には、『コイヌ』と表示されている。
「コイヌ……、犬の子供のことよね?」
名前の由来を気にしながら、息をひそめるアリス。

 

コイヌは少しの間、アリスの隠れている低木の前で立ち止まり、手(といっても腕は先のほうまですべて重火器になっているが)で低木の葉をかきわけたりしていたが、結局アリスには気づかずに去って行った。

 

「なんだったのかしら……今、あんなのとやりあったらひとたまりもないわ」

 

アリスはコイヌが去った方向とは逆へと進むことにした。

 

アリスがしばらく歩いていると、後ろのほうでいくつかの絶叫と爆音が聞こえた。
振り返ると、さきほど戦ったビルが空中に吹き飛ばされているのが見える。
「ビルが飛んでく」
アリスはつぶやいた。

 

 

●少佐がおしえてくれたこと

 

アリスが森の中を進んでいると、アリスの体ほどの大きさもあるキノコの前に出た。
アリスがキノコの大きさに驚いていると、頭の上のほうから声がした。
「おぬしはなんじゃ?」

 

アリスがふたたび驚いて見上げると、キノコの上に軍服を着た大きな青虫が、アイスクリームを食べながら座っている。
「わたしは、アリス。あなたは?」
「わしは青虫、少佐じゃ」
「青虫さんね」
「少佐じゃ」
「あおむ」
「少佐じゃ」
「……少佐さんね。おいしそうなアイスクリームね!」
「やらんぞ」
「別にねだってないわ! それに少佐がそんなに舐めたアイスクリームなんて欲しくないわよ」
「そうか。やらんぞ」
「……」
アリスは閉口した。

 

「おぬし、これまでにどれだけ戦った?」
アリスが口をつぐんでいると、突然、青虫は話を切り出した。
「3回、いや、4回かしら……」
「そうか、勝ったのか?」
「レースの3位を勝ちとするなら、2回勝ったわ。ネズミさんのおかげだけど……」
「ふーん、自分の力では勝ったことがない、と」
「くやしいけど、そうだわ。さっきの戦いで、ネズミさんの力が大きかったことはよくわったもの」
「それがわかったのなら、おぬしは強くなるかもしれんな。
おぬしのこれまでの戦いはどんなだった?」
アリスはこれまでの戦いの一部始終を説明した。

 

「ふむ。
情報を集めてそれをもとに判断することは、ネズミから学んだようじゃな」
「うん。『ミッションの目的、手段、攻略法』そして、『まずは地形で次に敵、一番危険な敵は誰?』だわ」
「おぬし、判断と決断についてどう思う?」
「判断と決断? よくわからないわ」
「まあ、よい。
わしの考えでは……
判断とは、いくつかの選択肢からもっとも適切なものを選び出すことだ。
決断とは、その選び出した選択肢を行動にうつすことだ」
「なんとなくわかるかも」
「おぬしはビルとやらとの戦いで、攻撃するべき絶好のタイミングを知り、体当たりをするべきだと判断できた。
だが、敵から受ける損失を恐れ、決断できなんだ」
「うん」
「つまり決断ができないから負けたんじゃ」
「うん……」


「気にするな。
勝負において、判断、つまり自分の『読み』を行うことはできても、その『読み』の結果に自分の身をゆだねることは、なかなかできんものじゃからな。
とくに、その『読み』の結果にもとづいた行動の危険性が高いときにはな」
「うん、こわいわ」
「うむ。
そうじゃ、こわさを自覚することはよい。
生物として、自然なことじゃ。
だがな、判断したことを決断によって行動にうつさんことには、現実における効果(まあ、ここでは勝利じゃな)にはならんのじゃ」
「どうすればいいの?」
「決断できるようになるには、2つのものが必要じゃ。
それは、『自分の判断スキルへの信頼』と『勇気』じゃ。
『自分の判断スキルへの信頼』とは、読んで字のごとく、自分の判断力と、その判断力によって下した判断を信頼することじゃ。
自分の判断力と下した判断に不安があっては、自分の身をゆだねることなどできんからな。
『勇気』は、これも読んで字のごとく、恐れに立ち向かう精神力が必要だということじゃ。」
「判断への信頼と勇気……」
アリスはつぶやくと、考え込んだ。

 

青虫は、ずっと話しこんだおかげで手に持ったアイスが溶けきり、手がアイスでベトベトになっていることに気づいた。
「なんじゃこりゃ!」
そう叫ぶと、青虫は急いでキノコを降り、草の中へとはっていき、
「『自分の判断スキルへの信頼』を築き、『勇気』をつちかうには、小さい成功を積み上げ、小さい信頼、小さい勇気を積み上げるといい」
と言い残して姿が見えなくなった。

 

「小さい成功を積み上げる……」
アリスは、青虫が言い残したことを頭の中で繰り返し、また少し考え込んだ。

 

 

●ハトぽっぽヒル


アリスが考えごとをしながら森の中を進んでいると、急に森が開けて丘の見える場所に出た。
丘の上へと道が続いているので、アリスは道なりに進んで丘を登りはじめた。

 

が、丘の中腹まで来たところで、突然銃声が起こり、それとともに『戦闘開始:敵を撃破せよ』という声がアリスに聞こえた。
「また突然の戦闘開始なの!?」
アリスは自分が撃たれていることに気づいたが、どこからだれに撃たれているかはわからない。
敵はその場から動いていないのか、モーショントラッカーには反応がない。
アリスの周りには身を隠せる場所もないので、とりあえずは機動力をいかして動き回り、敵を探すことにした。
アリスの機体は、今もなおレース用に改造されたままの装備である。

 

さいわい敵はアリスの動きをとらえきれていないようで、銃声がしてアリスの近くの地面への着弾が見えたりするが、アリスには当たらない。
アリスは銃声や銃の着弾などから、どうやら丘の上から撃ってきているようだと目星をつけた。
そして丘の上に目をこらすと、少し土を盛ったような場所が見える。

 

その土を盛った場所から、敵が上半身を出してこちらを射撃して、そして隠れるさまが見えた。
「見つけた!」
アリスは、敵に近づくには、敵が隠れているあいだにしなければならないと判断した。
「敵のすぐ近くに行くと、撃たれて命中するかも。
でも、ここが勇気を出して決断するべきときよね! 少佐!!」

 

アリスは敵の次の射撃を待つ。
少ししたのち、敵が射撃をし、そしてまた隠れた。
その瞬間、アリスは全速力で敵に接近する。

 

「ビルがわたしにしたみたいに!」
猛然と加速するアリス。
そして、敵が次の射撃をするかしないかのタイミングで、土の盛られた場所の上へと飛んだ。

 

アリスの敵の名前はハト。
ハトは、アリスがハトの居場所を発見できず、丘の中腹をうろうろしているのを見て、アリスを侮っていた。
そして、引き続きアリスに向けて射撃をし、そのあわてふためくさまを見てやろうと思ったとたん、視界が暗くなった。
盛られた土を飛びこえているアリスにより、陰ができたのである。
「おや?」
と思う間もなく、ハトはアリスの体当たりを受けていた。

 

アリスは、空中でハトに向かって急激に方向転換をし、落下の勢いも利用して体当たりをかけたのである。

 

ハトの機体の上半身はひしゃげ、リタイアとなった。
「なんてこった! 三週間、一睡もせずにこの高い所を陣取っていたのに……」
ハトはそう言い残すと、光となって消えた。

 

ハトへ体当たりをかけたあと、着地に失敗して盛大に転んでいたアリスは、空をあおいでぼうぜんとしながら、『目標達成。勝利』という声を聞いた。