戦い方の探索者

戦いの知恵を身につけ、自分の戦い方を築く。

不思議の[ゲームの]国のアリス その5

 

●サカナとカエルとアリス


アリスは喜びをかみしめ、むくりと起き上がった。
そして、軽くステップを踏みながら、丘を下った。

 

丘を下ると、家が1件見えた。
その家の前で、2体のロボットがなにやら動いている。

 

アリスがよく確認しようと近づくと、とつぜん、『戦闘開始:バトルロイヤル。指定時間まで生存せよ』との声が聞こえた。
「また戦闘なの!?」
ふたたび戦闘に巻き込まれたことに驚いたが、前回の戦闘での勝利もあり、アリスは気持ちに余裕をもって戦闘に臨んだ。
アリスの機体は、やはりレース用に改造された装備のままである。

 

家の前で動いていたロボット2体は、どうやら戦闘をしていたようで、その戦闘にアリスが巻き込まれるかたちになったらしい。
戦っている2体のロボットのプレイヤー名は、サカナとカエル。
どちらもやや装甲を厚くしたロボットで、サカナはその身の丈ほどの大きさの封書を持ち、カエルはその身の丈ほどの大きさのペーパーナイフを持ち、つばぜりあっている。

 

サカナとカエルはアリスの接近に気づいたようで、一旦つばぜりあいをやめて、両者、アリスのほうを見た。
「決闘に乱入するとは無粋かな!」
とサカナ。
「ゲロゲロ。まずはわれが11秒、次にお主が11秒、いかが」
とカエル。
サカナは
「承知!」
と返し、持っている封書を勢いよく地面へ刺し、地面へ座り込んだ。

 

カエルは
「行くぞ、曲者!!」
と言うや素早くアリスへ接近し、そのナイフを突き出した。
突然の展開ではあるが、なんとか紙一重で突きをかわすアリス。
カエルはそのまま連続して突き、たたみかけてくる。
アリスの機体には腕がなく、腕や剣でカエルのナイフを受けることができないので、なんとか左右や後方への動きでかわそうとする。
が、カエルの素早さがそれを許さない。
少しずつ前面の装甲を削られるアリス。

 

「なんて早いの! どうにもできないわ!」
アリスは、自分の頭の中が真っ白になるかと思われたその時、
「11秒! 次はわれよ!」
とサカナが立ち上がって動き出した。
退くカエル。

 

アリスが一息つく間もなく、サカナが突っこんでくる。
後退するアリス。
サカナは加速をかけ、巨大な封書を振りかぶり、アリスを撃つ。
アリスはすんでのところでその攻撃をかわしたが、次の瞬間、サカナは封書を盾のように持ち、その面の部分を使って体当たりをかけた。
体当たりをもろに受け、吹き飛ばされるアリス。

 

アリスの機体はひどく損傷し、満足に動けず、起き上がれない。
アリスに近づくサカナ。
「ああ、また負けちゃうのね……」
とアリスが観念したそのとき、
『戦闘終了:引き分け』
と声が響いた。

 

「むう、これまでか!」
とサカナは言い、その持っている封書をカエルに向かって投げ、その姿をロボットからサカナへと変えつつ、森の中へと走り去った。

 

カエルは、戦闘終了と同時にロボットの姿からカエルの姿へと変化し、その場に座り込んだ。
そのすぐ隣に、さきほどサカナが投げた封書が突き刺さる。
封書が刺さった衝撃で、家の扉が開いた。

 

アリスは、敗北をまぬがれたことに少し安心したものの、自分の実力不足を痛感し、また、自分の機体のあり方について考えざるをえなかった。
「わたしはまだまだね……」
そして、ふと目を前にやると、家の扉が開いているのが見えた。

 

「ねえ、カエルさん、わたし、とても疲れたわ。家に入れてもらえないかしら」
カエルに話しかけるアリス。
「好きにするとええ」
とカエルが答える。

 

アリスがその言葉に甘え、疲れで重くなった足を引きずるように家に入ろうとすると、とつぜん扉の奥から砲弾が飛び出してきて、アリスの顔面をかすめたあと、カエルの近くで炸裂した。
だが、カエルはどこ吹く風で座り続けている。

 

アリスはぎょっとして、家の中をのぞきこんだ。

 

 

●公爵夫人のおうちにて


家の中をのぞきこむと、もうもうと煙がたちこめている。
その煙の中、戦闘が繰り広げられていた。
どうやら、けむりは砲煙らしい。

 

アリスは、目をこらして状況を確認する。
奥に位置する台所には、料理人という名前のプレイヤーのロボットがおり、その肩に装備された大砲をむやみやたらと撃ちまくっている。
部屋の真ん中の塹壕には、公爵夫人という名前のプレイヤーのロボットがおり、そして、その横に赤ちゃんという名前のロボットが並んでいる。
部屋のだんろの前には、チェシャー猫という名前のプレイヤーがぽつんと立っている。

 

料理人の猛砲撃により、アリスは家に入るのに腰が引けたが、
「ここまで来たならしょうがないか」
と思い、頭を上げないようにしつつ家へ足を踏み入れた。
そのまま、公爵夫人のいる塹壕へ近づく。

 

すると、公爵夫人がアリスを見て、
「お前も参加するかい?!」
と問うた。
アリスはつい、
「え、ええ」
と答えてしまった。

 

『戦闘開始:料理人を撃破せよ』
という声がどこからか聞こえる。

 

公爵夫人は、
「聞いたろう! やってみな!」
と言ってアリスを指さしたあと、料理人を指さした。

 

アリスはいったん公爵夫人と赤ちゃんのいる塹壕に滑り込み、料理人の様子をうかがう。
いぜんとして、料理人はむやみやたらと撃ちまくっている。

 

アリスはそれをかいくぐって料理人に接近しなければないため、あたりに身を隠せる場所がないか、探した。
すると、すぐ近くにひっくり返ったソファがあるので、まずはその後ろへ進むことにした。

 

「よいしょ!」
アリスは塹壕から出て、地面に伏しつつ、前進する。
ソファの後ろに到着。

 

すると、料理人がとつぜん鍋を入れてある収納ラックから重機関銃を取り出し、これまた猛然と撃ち始めた。
しかもソファに向かって。

 

猛烈に吐き出される弾丸にソファが耐えられるはずもなく、粉砕されていくソファ。
アリスは、ソファの後ろにいたので、何が起こったかわからないまま、その銃撃を全身に浴びてリタイアとなった。

 

「なんだい! あっけないねぇ」
公爵夫人はため息をついた。
「これからも負け続ける気かい?」
なぜ負けたかさえ把握できていないアリスは、いきなりそんなことを言われて、ちょっと腹が立ってきた。
「わたしにそんな気があるとホントに思っているの?!」
「知らないよ。じゃあ、勝ちたいのかい」
「それはそうよ。また実力が足りないようだし、機体もどうなのかはわからないけど」
「ふーん」
公爵夫人は鼻をちり紙でかんで、その紙を塹壕の外に投げ捨てた。
「あんた、名前は……アリスか。アリス、ちょっと戦歴を見せてもらうよ」
公爵夫人はそう言うと、なにやら夫人の前に出た画面をタッチして操りだした。
「なになに……勝ち2、レース3位、負け3、引き分け1、まあ、ぼちぼちじゃないか」
「そうなの? でも……」
アリスは、青虫に話したように、公爵夫人にもこれまでの戦いについて話した。

 

「ははーん、あんた、ネズミに教えられたのかい。そうかいうかい
よし、アリス、今からあたしがあんたを少し鍛えてやるよ」
「ほんと?」
「ああ、袖すりあうも多少の硝煙、ってね」
「縁だよ! 公爵夫人!」
と料理人が機関銃をぶっ放しながらツッこんだ。

 

公爵夫人は、横にいる赤ちゃんを見て、
「ちょうど、この赤ちゃんをトレーニング中だったんだ。アリスも一緒に訓練してやる」
と言った。
「公爵夫人、ありがとう」
アリスは丁寧にお辞儀をした。

 

公爵夫人の指示で、アリスと赤ちゃんはシミュレーションモードを立ち上げ、射撃訓練を行った。
アリスは、機体をレース用の装備から、もとの初心者用のものに戻している。
「アリス、あんた、射撃にはあまり向いてないねぇ……」
と公爵夫人。
「そうかしら? これまであまり撃っていなかったからだと思うわ」
とアリス。
「赤ちゃんは、あんたよりも初心者だが、見てみな」
公爵夫人がそう言うので、アリスは赤ちゃんを見た。
すると、赤ちゃんは的の真ん中にかなりの割合で弾を集めている。
「適性ってやつはあるもんさ。
適性に合わんことを磨いても、ギリギリが求められる勝負では、勝つ決め手にはならないよ」
「そうなの……」
アリスはしょぼくれた。

 

公爵夫人は、アリスのこれまでの戦闘経験をもう一度細かく洗い直し、格闘に特化させることにした。
アリスにいろいろな型で剣を振らせてみる。
「どうだい?」
「体当たりより、遠くを攻撃できていいと思う」
「そうかい
で、どういう振り方がなじむ?」
アリスは剣を横に振った。
「こんな感じの振り方かしら」
「薙ぐタイプだね。わかった」

 

公爵夫人とアリスは、薙ぐ攻撃をもととしてアリスの戦闘方法をつくり、そしてその戦闘方法に基づいて機体の改造をはじめた。
ジェネレータを出力の高いものに変更し、その出力を機動力と防御力(装甲)に割り振った。
武器は刀身に反りのある剣を持ち、それ以外では、手りゅう弾や煙幕弾をいくつか持つ。
こうして、アリスの新しい機体が完成した。

 

シミュレーションで動きを確かめるアリス。
確かに、射撃するよりかは、なじむ戦闘方法である。

 

アリスがいくつかの仮想の敵を撃破するのを見たあと、公爵夫人が言った。
「アリス、わたしと対戦だ」
「え?」
アリスが返事をする間もなく、対戦シミュレーションが開始される。

 

公爵夫人の機体は、そこそこの機動力、ちょっと低めの防御力で、武器は自動小銃とショットガン、そして盾を装備している。
公爵夫人は、まずは右手に自動小銃、左手に盾を持ち、アリスに射撃をしかけた。

 

射撃をかわすアリス。
そのすばやい機動力を活かして公爵夫人に近づこうとするが、今度は射撃を受けてしまい、阻止される。
「ほら、アリス! ただ直線的に近づこうとするだけじゃ、相手に簡単に対処されるよ!」
「そのようね!」
アリスは答え、公爵夫人の周りをまわる。
あたりには、隠れるような場所もない。

 

少し考えていると装備の煙幕弾を思い出したので、それを使うことにした。
公爵夫人に向けて、煙幕弾を投げつける。
公爵夫人はそれを盾で防ぐと、小さな爆発とともに煙幕弾ははじけ、煙が周囲に立ち込めた。
「よしよーし!」
公爵夫人が大きい声で言う。
煙幕の中では、モーショントラッカーは働かない。
アリスは公爵夫人の背後から素早く忍び寄り、剣で薙いだ。

 

公爵夫人は、そのアリスの攻撃を盾で受け止めた。
「えっ!?」
防がれると思っていなかったアリスは、驚いた。
「いい狙いなんだけど、動きに鋭さがないね!」
そう言うや、ショットガンをアリスの機体の胴体に撃ちこんだ。

 

アリスは厚い装甲のおかげでなんとかリタイアにはならなかったが、公爵夫人はすかさずマシンガンに持ち替えてさらに射撃を加えた。
避けきれないアリス。
今度こそリタイアとなった。

 

対戦シミュレーションが終了する。

 

「アリス、あんたは動きが鈍いね。
自分の機体を、自分のイメージ通りに動かせていない。」
「自分のイメージ通りに……たしかに、完全に思い通りにはなっていないわ」

 

「まあ、まだその機体に乗って間もないから、しょうがないことではある。
イメージしたとおりに機体を動かすには、それぞれの動作を繰り返して体に覚えさせるしかないからね」
「体に覚えさせる……」
「ああ、言いかたを変えると、考えずにできるようになる、ということだよ。
アリスは今、機体の動作、勝負における判断と決断、どれもその場でいちいち考えながらやっている。
その考えている時間の分だけ、動きから鋭さが失われているのさ。」
「……」

 

「その考えている時間を、トレーニングを繰り返して行うことで少しずつ短くしていき、最終的には反射的にできるようになるまでにしなければならない。
なぜかって、戦いは、一瞬の隙をつけるかどうかが勝敗を分けるからさ。
一瞬の隙を見抜く判断力と、一瞬の隙へ迷いなく攻撃を行う決断力、そして一瞬の隙へ叩き込むことができる速度のある攻撃、これらがそろってこそ、勝つことができるのさ。」
「たしかに、その通りだと思う」

 

「そういえば、アリスはネズミに教わったことを短いフレーズで覚えてたね」
「『ミッションの目的、手段、攻略法』『まずは地形で次に敵、一番危険な敵は誰?』のこと?」
「ああ、それさ。
そのあんたのつくり出した思考パターンを高速で回しまくり、そのフレーズを頭で浮かべなくてもできるようにすればいい。
そうすれば、判断はより速くなり、それにともなう決断も速くなるだろう。
そして、判断と決断という知能的スキルを速くするのに合わせて、あたしとともにつくり出した攻撃動作もろもろ、つまり身体的スキルを速くできるようにしていくといい。」
「速くするのね」

 

「ああ、繰り返して行うことで、反射的にできるくらいまで速くするのさ。
フレーズをつくるなら、『反復で反射的に』というところだね」
「『反復で反射的に』。わかった!」

 

アリスと公爵夫人、そして赤ちゃんは、その後も個人での素振りやみんなでの対戦など、トレーニングを行った。
そうして、アリスと赤ちゃんは、それぞれのイメージ通りの動きがだいたいできるようになった。

 

「よし、アリス、赤ちゃん、あたしからのトレーニングはこれくらいだ。
あとは自分で頑張りな」
「ありがとう、公爵夫人。
おかげで強くなったわ!」
とアリス。
「ばぶー。ありがとうございます」
と赤ちゃん。

 

アリスと赤ちゃんは、料理人の用意したきいちごのジュースの入った盃をぐいっと飲み干すと、公爵夫人の家を後にした。