戦い方の探索者

戦いの知恵を身につけ、自分の戦い方を築く。

不思議の[ゲームの]国のアリス その7

 

●開かれたドア


アリスが森の中を進んでいると、大きな木があり、その木の幹にドアがあった。
「これは……ふふ、おもしろいわね」
ドアを開け、入ってみるアリス。

 

すると、ウサギを追っていたときにたどりついた、細長い広間に出た。
「あっ、ここは……なんてラッキーなのかしら! クリスタルのドアに行ってみよう」
クリスタルのドアの前に来る。
そして、ドアノブを握った。

 

ドアが機械音声でしゃべる。
「プレイヤー名、アリス。
知能スキル、身体スキルはドア通過レベルに達しています。
精神的スキルは、ドア通過レベルに達していませんが、上級者2名の推薦がありますので、ドア通過を許可します」

 

「うれしい!……けど、推薦? 誰なのかしら」
アリスが、ドアに表示された画面の、推薦者に関する部分をタッチしてみると、ネズミと公爵夫人の名前があった。
「ネズミさん……公爵夫人……ありがとう! この恩、忘れないわ」
2人の心遣いに感じ入るアリス。

 

アリスは、開かれたドアの先へと進んだ。

 

 

●首斬りの庭


アリスは、木々や草花がきれいに整えられた庭園に来た。
「いいところね……」
と庭園を観賞していると、『ミッション開始:庭師を救え ボーナス:首』という声が響いた。

 

「庭師? ボーナス?」
アリスは見回す。
すると、体の部分がトランプになっているロボットが3体、走っているのが見えた。
「奇妙な体ね。あれが庭師かしら?」
アリスの体もロボットに変化していたので、背中の推進器をふかして近づく。

 

すると、その3体のうしろに、剣を構えて走っている3体のロボットが見えた。
アリスが近づいたおかげか、それらロボットの名前が表示され、追われているのが庭師2号、5号、7号、追っているのが兵士1号、2号、3号であるとわかった。
兵士たちは口々に、
「首を切れ!」
「おうよ! 首を切ればボーナス点だぞ!」
と叫んでいる。
「そう、首を狙えば、ボーナス点がもらえるのね」
アリスは理解した。

 

アリスは周辺の地形をざっと確認したあと、兵士に攻撃をかけるべく、庭園の木々に隠れつつ忍びよった。
兵士たちは庭師を追うことに夢中で、周辺の警戒をしていない。
「呼吸、呼吸」
呼吸を整えるアリス。
「精神状態を自覚……と思ったけど、わりと落ち着いていられるわね」

 

アリスは顔を敵へと向ける。
「敵の装備は剣だけのようね……よし、勇気を持って行くわ!」
アリスは加速をかけ、一番うしろを走っている兵士に近づき、背後から薙いだ。
兵士の首がとぶ。

 

すると、前を行く2人の兵士がアリスに気づき、振り返った。
「へ、兵士3号! なにやつ!」
と叫び、アリスに接近する。

 

アリスはきびすを返して退く。
そして、近くの細い道に入った。
それを追う兵士1号と兵士2号。

 

先頭を行く兵士1号がアリスを追って細い道に入ろうとしたとき、その首がとんだ。
「へ、兵士1号! おのれ!」
残った兵士2号が、首のなくなった兵士1号の機体を細い道へと押し込み、その機体を盾にして細い道へ突っ込む。

 

細い道の先には、アリスが剣を構えて待ちかまえている。
兵士2号は、剣を振りかぶってアリスに斬りかかる。
しかし、その振りかぶった剣が降ろされる前に、アリスの横に払った斬りが兵士2号の首に届いた。

 

『ミッション終了:目的達成 ボーナス達成:3』という声がアリスに聞こえる。
アリスは剣をおさめた。
細い道から出る。

 

すると、そこには庭師たちがおり、口々にアリスをほめたたえ、感謝し、そして武器をくれた。
武器は、『フラミンゴ』という剣先に重みのある剣と、『ハリネズミ』という爆発とともにトゲをばらまく爆弾である。

 

武器を受け取ったあと、アリスは庭師たちと別れた。

 

 

●クロッケー場の戦い


アリスが庭園の中を歩いていると、『メッセージを受信』という声が聞こえた。
そして、目の前に画面が現れた。

 

アリスは画面をタッチしてメッセージを確認する。
メッセージは2通。
1通目は、ハートクランからの敵対通知である。
どうやら先ほどの兵士たちは、『ハートクラン』という、ハートの女王をトップに頂く集団に属していたようだ。
(クランとは、同じ目的を持つ者の集団のことである)
そのハートクランは、兵士たちを斬ったアリスをお尋ね者として設定したらしい。

 

2通目は公爵夫人からの、戦闘への招待状である。
公爵夫人の率いる『くしゃみクラン』がハートクランと戦うことになったので、ぜひくしゃみクランの一員として参戦してほしいとのことだ。

 

アリスは参戦依頼を快く引き受けた。


庭園から少し歩いた場所に、対戦場所となるクロッケー場はあった。
そこに、公爵夫人たちが集まっている。

 

アリスが近づくと、
「来たね!」
と公爵夫人が叫んだ。
「どうだい、自分で頑張れたかい」
公爵夫人が続けて話す。
「ええ、公爵夫人。平常心と勇気のスキルは、少し上がったと思うわ」
「それは上々。あんたも戦士の顔つきになってきたね」

 

公爵夫人のくしゃみクランのメンバーは、料理人、チェシャー猫、カエル、子ブタ、帽子屋、三月ウサギ、ヤマネ、である。
彼らはアリスとの再会を祝した。

 

アリスとメンバーとの会話が一通り終わると、公爵夫人は全員に近くのシートに座るようにうながす。
アリスは、
「公爵夫人、戦闘をするのに、このシートに座るときと座らないときとがあるのは、なにか理由があるの?」
と聞いた。
「ああ、わたしもホントのところは知らない。けど、あたしの経験からすると、奇襲がからむ戦闘にはシートは出ないね」
「そうなんだ」
とアリス。

 

全員がシートに座ると、公爵夫人による戦闘の説明が開始された。
敵はハートクラン。
戦いは9人対9人で行われ、敵のリーダーを倒せば勝ちである。
場所はここ、クロッケー場で、広く平坦な地形となっている。

 

公爵夫人は、チームを3つに分けた。

 

Aチームは、公爵夫人、カエル、料理人、子ブタ、の4人。
カエルは格闘型、公爵夫人は近接射撃型、料理人は砲撃型、子ブタは狙撃型である。

 

Bチームは、アリス、帽子屋、三月ウサギ、ヤマネ、の4人。
アリスは格闘型、帽子屋は近接射撃型、三月ウサギは砲撃型、ヤマネは狙撃型である。

 

AチームとBチームは、うまいぐあいに機体の型がバランスよく分かれている。

 

Cチームは、チェシャー猫1人。
チェシャー猫は、数あるロボットの中でも特異なステルス型である。

 

アリスは、ここで初めてチェシャ―猫の機体の特性を知った。
そして、納得した。
以前に対戦したときに、急に目の前から消え、そしてアリスと子ブタが爆破されたのは、姿を消すことができるステルス機であるがゆえだったのだ。

 

チェシャー猫は、今回も機体を消して女王に接近し、そして女王を爆破する予定らしい。
(だとすると、楽勝じゃないかしら…)
とアリスは思った。

 

公爵夫人によると、ハートクランがどう出てくるかはわからないが、とりあえずはBチームが敵の動きを止め、その間にAチームとチェシャ―猫が女王を狙うことにするという。
アリスは、お茶会のメンバーたちと敵の動きを止めることになる。
(お茶会での振る舞いをみると、心配だわ)
アリスは少しまゆをひそめた。
その変化に気づいたのか、帽子屋が叫んだ。
「大丈夫! 死ぬときは一緒!」
アリスはさらにまゆをひそめた。

 

そしていよいよ、戦闘が開始された。

 

くしゃみクランの面々はマップに出現するや、Bチームを前にして、ハートクランのほうへ進み始めた。
Cチームであるチェシャー猫はすぐに姿を消した。

 

クロッケー場は平坦なので、遠くにいるハートクランが見える。
ハートクランも、どうやらメンバーを二手にわけて進んでくるようだ。

 

両クランの距離がどんどん縮まる。
射程距離に入ったのか、子ブタとヤマネが撃ち始めた。

 

ハートクランの前衛付近で土煙が巻き上がる。
命中弾はないようだ。

 

お互いの態勢がよく把握できる距離にまで近づいたとき、公爵夫人が指示を出した。
「敵は前衛と後衛の二手にわかれているが、その前衛と後衛の距離が遠い。
敵後衛が接近する前に、A、Bチームでもって前衛をたたく!」
「わかったわ!」
アリスは敵前衛に向かって加速した。
お茶会トリオもそれに続く。

 

ハートクランは、メンバーを2つのチームに分けていた。
前衛チームは、兵士4号、処刑人、ウサギ、サカナ、ウミガメもどき、の5人からなる。
後衛チームは、女王、王、ハートのジャック、グリフォン、の4人からなる。

 

グリフォンは、空を飛ぶ飛行型で、女王たちのすぐ上を飛んでいる。

 

飛行型は、チェシャ―猫のステルス型と同じく、かなりレアな機能である。
飛行型もステルス型も、ジェネレーターの出力のほとんどを飛行やステルスに費やすので、たいした武器を持つことができない上に機動力も限定され、装甲もほぼ無いに等しい。
特殊な機能と引き換えに、基本的な戦闘力を犠牲にしているのである。

 

ハートクランは、この2チームでもって、くしゃみクランのほうへばく進していた。

 

まずは、アリスたちBチームと、ハートクランの前衛が接触した。
アリスはウミガメもどきと剣を交える。
ウミガメもどきは、剣を持ち、装甲を厚くしてほどほどの機動力を備えている。
アリスと似た、格闘型に属する機体である。

 

アリスたちBチームがハートクラン前衛と接触した直後、公爵夫人が率いるAチームもハートクラン前衛に接触した。
これで、数の上では8対5となり、くしゃみクランが優位となる。

 

だが、ハートクラン前衛が押されて少し後退したかと思うと、刹那、巨大な閃光がはしった。
アリスは目がくらむ。

 

アリスが再び周りを見ることができるようになった時、状況は一変していた。
くしゃみクランのメンバーのうち、公爵夫人とカエルは大破、料理人、子ブタ、ヤマネはリタイアとなっていた。
被害を受けていないのは、アリス、帽子屋、三月ウサギの3人だけである。
チェシャー猫は、リタイアしていないことだけは確かだが、どうなっているのかはわからない。

 

ひどい損傷を受けている公爵夫人の通信によると、どうやらハートクランの女王の強大なビーム砲によるものらしい。
女王たち後衛の前進が遅れていたのは、連携がとれていなかったわけではなく、ハートクラン前衛にくしゃみクランを取りつかせた後にビーム砲で一掃しようとする策だったようだ。
そしてその策はおおむね成功した。

 

ただし、このビーム砲は大雑把な兵器でもあるので、ハートクラン前衛の中にもただではすまなかった機体がいくつかある。
アリスが剣を交えていたウミガメもどきも、背中側を思いきり焼かれて動けなくなっていた。

 

アリスは、
「そのようすじゃ勝負はお預けね」
と言って公爵夫人のほうへ去った。

 

が、公爵夫人と合流する前に、公爵夫人から通信が入った。
「アリス! あんたは女王へ向かえ! まだチェシャー猫がいる。あんたが女王の護衛をけん制して、チェシャの仕事をやりやすくしな!」
「わかったわ。でも、公爵夫人は大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ! だが、リタイアするわけにはいかん。帽子屋と三月ウサギ! 盾になりな」
「ウヒョー! シビれるご命令!!」
と帽子屋。
「まあ、リーダー落ちたら負けだから」
と三月ウサギ。

 

アリスは、女王のいるハートクラン後衛に向かい、全速力で進んだ。
公爵夫人たち、残存したくしゃみクランは、合流しつつ後退を始める。

 

ハートクラン前衛は、動けなくなったウミガメもどきとサカナをその場に置いて、残った3人で態勢を整えると、くしゃみクランの追撃にうつった。
ハートクラン後衛の上空を飛んでいたグリフォンも、くしゃみクランの追撃にうつる。

 

それを見てアリスは思った。
(女王は、わたしが近づいているのが見えているし、くしゃみクランのメンバーが見た目では1人足りないことには気づいているはず。
なのに、3人の護衛のうち1人を追撃にまわすなんて、よほど護衛を信頼しているのか、あるいはくしゃみクランを侮っているのかしら……)

 

女王の護衛は2人。
王とハートのジャックである。
王は剣と巨大な盾を持ち、装甲も厚い防御重視の機体である。
ハートのジャックは槍を持ち、ほどほどの装甲と高めの機動力を備えた機体である。

 

アリスが接近すると、ふいに女王周辺に煙が巻き上がった。
護衛たちの対応を見ると、どうやらチェシャー猫のしわざのようなので、アリスも追加で煙幕弾を投げた。
そしてそのまま、アリスの前方にいるハートのジャックへと突っ込んだ。

 

アリスとジャックが剣と槍を交えて戦い始めた矢先、近くで爆発音がした。
チェシャー猫が爆弾を使ったらしい。
そして、再び女王がビーム砲を撃ったらしく、アリスとジャックのいる場所とは反対方向へとビームの軌跡が伸びていった。
ビームの勢いによって、煙幕がいくらか吹き飛ばされる。

 

アリスから女王の姿が見えた。
ダメージはほとんどないように見える。

 

ジャックにとっては、女王のいる場所は背中側になっている。
ジャックは、女王の状態が気になったのか、その身を回転させながらアリスに槍を打ち込み、その回転時に後方を一瞬確認しようとした。

 

アリスは、そのジャックの回転攻撃を受け流し、ジャックと立ち位置を交換するやいなや、ジャックを放置して女王へと向かった。

 

「あっ!!」
思わず声を出すジャック。

 

女王は、ビーム砲を撃つときには、体に備えつけられた杭を地面に打ち込む。
そうして体を固定しているため、アリス側へは背を向けたままだ。
王も、女王とは少しだけ離れた場所におり、もはやアリスの攻撃の阻止には間に合わない。

 

アリスは女王に思いきり斬りつけた。
もちろん、左から右への横斬りである。
剣が女王の腹部にくいこむ。
しかし、その剣は腹部を断ち切ることはできず、腹部を3分の1ほど斬ったところで止まってしまった。

 

(!!なんて装甲が厚いの!!?)
アリスは驚愕した。
すぐさま剣を抜こうとしたが、抜けない。

 

王とジャックが迫ってきているので、アリスは剣を捨てるしかないと思った。
が、ふたたび女王、そして次に王に爆発が起こり、煙幕もたかれた。

 

その爆発の衝撃でアリスの剣が抜ける。
また、アリスの耳元で、
「アリス! こちらの武器では女王を倒せない! 退くぞ! にゃあ!」
というチェシャー猫の声がした。

 

アリスは即座に逃げ出した。
煙幕を抜ける。
ジャックがその後を追ったが、アリスの機動力には追いつけず、追撃をあきらめた。

 

追撃を振り切ったあと、アリスが味方の情報を確認しようとしたとき、戦闘が終了した。
どうやら、チェシャー猫が戦場外へ離脱、ハートクラン前衛の攻撃をなんとかしのいでいた公爵夫人たちも、チェシャー猫の離脱に合わせて撤退をしたようだ。
リーダーが戦場を離脱したため、この戦いはくしゃみクランの敗北となったという表示がなされた。

 

「負けた……でも、これが集団戦なのね」
アリスは、負けた悔しさを受け入れてさらっと受け流し、すでに次の戦いで女王を倒すにはどうすればいいのか、と考え始めていた。